動物の血液と輸血7
動物の血液バンクがなぜ日本にはないのでしょうか。
理由はいくつかあります。
①血液を供給してくれる動物の問題
ドナーとなる動物の条件の一つに
年齢と健康であること
です。
供血猫(犬)を飼育するのであれば、
できるだけ動物にストレスを与えない環境の提供を
しなければなりません。
また年老いたり、病気になった動物が
供血猫(犬)から引退した後も
生涯飼育し続ける必要があります。
それらをしっかり整えたシステムや環境が
必須になります。
②法律
日本では会社が動物の血液を動物病院に販売するために、
血液は薬事法で薬として扱われています。
薬事法では、
薬の製造にとても厳しい衛生管理と品質管理が求められます。
これをクリニックがクリアするためには
人の輸血体制と同じくらい
レベルの高い大規模な設備が必要です。
また健康保険機構がない動物医療の世界では、
飼い主が医療費全額自己負担する必要があり、
飼い主の経済状況によって払える金額に限界があります。
そのため維持管理費などの多くの費用や労力がかかり
大規模な血液バンクを安定して運営することが難しいのです。
動物病院が
独自に血液を用意する場合は
このような厳しい規制はありません。
そのため現状では
動物病院が独自で血液を用意する方法が取られています。
動物の血液と輸血6
動物の輸血のハードルを高くしてる理由に一つは、
血液の確保です。
人の輸血用の稀有的は日本で唯一、日本赤十字社が行う
血液バンク(血液事業)によって確保されています。
動物の場合、
世界的に見ると、
アメリカ、イギリス、オーストラリアなどの先進国には
公的機関ではありませんが、大規模な動物の血液バンクが複数あり、
犬や猫の血液を必要なときに購入することができます。
一方、日本には大規模な血液バンクがありません。
各々の動物病院が
独自に血液を確保しなければなりません。
現在、日本で犬や猫の血液を確保するために3つの方法があります。
①動物病院や大学病院が持つ血液バンクから血液を確保する
大きな病院や大学病院では独自の小規模な血液バンクを作って
血液を確保していることがあります。
動物病院を訪れる動物の了承を得て、
健康な猫や犬から献血をお願いしてもらい、
血液を確保します。
動物病院によって異なりますが、
献血してくれた方には
健康診断やワクチン接種、
ペットフードの提供などのお礼があります。
実際には血液の保存する設備や衛生管理、在庫管理など
手間やお金がかかるため、
血液バンクを運営することは簡単ではありません。
②同居している動物や友達の動物から血液を確保
多くの病院が血液が必要なときに
血液を確保することが多いと思います。
その方法の一つが、
血液が必要な動物の同居の子や
飼い主さんのお友達に事情を説明して
血液ドナーを探してもらいます。
オーナーさんがドナーを見つけられない時は
動物病院では
あらかじめドナー協力をしてくれるオーナーさんを探し、
登録させていただき、
いざという時に献血をお願いすることもあります。
③供血動物(猫)から血液を確保
動物病院では動物動物病院で
献血のために犬や猫を飼っていることがあります。
供血猫(犬)と言います。
動物病院でペットとして飼育されて、
いざという時に血液を提供するという関係です。
しかし同じ動物でも
献血できる頻度決まっています(体の負荷を考えて)。
連続して同じ動物は使えません。
そんな時は
病院のスタッフが飼っている猫や犬から
血液をもらうことがあります。
動物病院で中〜大型の犬を飼っていることが多いのは、
たくさんの輸血を確保する意味合いもあると思います。
日本では実際は③の方法で確保されることが
とても多いです。
輸血の血液確保だけも動物病院で働くスタッフの様々な努力の結果成り立っています。
動物の血液と輸血5
◼︎
病気の動物に血液を提供するためには、
健康な血液を持つ相手が必要です。
定期的な感染症予防(ワクチン)を行っており、
病気を持ってない動物が血液ドナーになることができます。
また、体重も一定以上の個体であることが
条件になります。
小さい動物では採血できる量が限られていますし、
負担が大きいので、
ドナー対象になりません。
大きい犬は採血で取れる血の量が多いこともあるため、
35kg以上という下限があります。
猫にも下限はありますが、
犬と違って体重に大きな幅がないので、
条件を満たしても、犬に比べると採血できる量は限られます。
緊急時は条件に外れていても、
ドナーに負担にならない範囲で
採血をおこないこともあります。
====血液ドナーになれる主な条件(猫)====
⚪︎年齢;1−7歳
⚪︎性別;去勢オス、子供を産んだことのない避妊メス
⚪︎体重;3.5kg以上
⚪︎飼育環境;完全室内飼育
⚪︎予防;3種混合ワクチンとノミダニ予防をしている
ヘモプラズマなど血液からうつる病気に感染しいていないこと
========================
猫からは30〜50ml程度、採血することが多いです。
条件を満たしたとしても、
血液型含め適合しないことがあります。
動物の輸血は
血の確保がとても難しいのです。
◾️
動物の血液と輸血4
◼︎動物の輸血の始まり
19世紀から20世紀の初めにかけて、
人の血液型が発見された後、
犬では1910年頃、
猫では1912年頃に、
血液型が発見、抗凝固剤が発見、血液の保存方法の開発と
一気に進みました。
これらの成果をもとに、
傷ついた兵士に対する輸血が多く行われ、
輸血技術が確立されたとされています。
この時に人で研究された成果が、
動物の輸血医療に応用されました。
普通の医療技術進歩と逆ですね。
そうして1950年代に入ると、
世界中の獣医師たちにより
動物の輸血医療が本格的にはじまったと言われています。
◼︎
初めの頃は、
血液型を調べる薬品が
大学や研究機関にしかなく、
輸血前検査をほとんど行わず輸血を行っていたため、
副作用が多かったようです。
2000年代に入って、
動物病院で血液型が
動物病院で簡単に調べられるようになり、
昔に比べると
簡単に輸血ができるようになりました。
しかし
人の輸血に比べると
犬と猫の輸血は
関連検査だけでなく、
輸血体制も
大きく遅れているのが現状です。
◼︎
動物の血液と輸血3
猫は
人のABO式血液型と同じように
AB血液型システムの血液型に
対して抗体を持っています。
ですので、
人と同じように
A型の人は抗B抗体
B型の人は抗A抗体
を持っており、
違う血液型を輸血すると
重い副作用が起こってしまいます。
ですので、必ず同じ血液型を輸血する必要があります。
ただし、緊急時にAB型の猫に輸血するときは、
AB型の血液が手に入らなければ、
A型の血液を使う場合があります。
これは、AB型の猫には血球を攻撃する抗体がないためです。
◼︎
動物から動物への輸血は、
人よりも早い時期に行われていました。
これは治療目的ではなく、
人の輸血に対する実験です。
人では1667年に子羊の血液を人に輸血した実験が初めてで、
これよりも2年早い、1665年に行われました。
イギリスのリチャード・ロウアーという医師が行いました。
輸血の問題の一つは、
血液を取り出すと血液が固まってしまうことでした。
のちに抗凝固剤を発見するのですが、
初めは血液が固まる前に
レシピエント側に流していました。
犬の輸血の実験で
血液を人為的に抜いた中型雑種犬の頸静脈と
大型犬の頸動脈を銀で作られた管で直接繋いで
血液を流しました。
すると貧血だった犬は元気になり、
見事輸血成功となりました。
これが犬や人の緊急治療としての輸血の始まりと言われています。
しかし血液の型がまだわかっておらず、
人の医療現場で
患者が重い副作用で亡くなって大問題になったため、
ヨーロッパでは輸血を禁止され、
それから150年ほど
医療現場での輸血は行われなかった時期がありました。
◼︎
動物の血液と輸血2
動物にもいくつもの血液型システムがあり、
複数の血液型抗原システムを持っています。
◾️
猫に血液型の研究は1912年に始まったと言われています。
人間型が発見されたのが1900年なので
人の研究直後に始まりました。
猫にはAB血液型システムがあり、
A型、B型、AB型に分けられます。
人のABO式血液型とは名前が似ていますが、
全く異なる血液型です。
A血液型抗原を持つ猫をA型
B 血液型抗原を持つ猫をB型
両方持つ猫をAB型持つ猫をAB型
の3つに分けられます。
人の血液型抗原遺伝子と異なり、
A血液型抗原を作る遺伝子は、
B型血液抗原遺伝子に対して優性なので、
A型の猫が圧倒的に多いです。
A型の猫が約95%
B型の猫が約5%
AB型はそれ以下
と言われています。
AB型に関しては品種によっては
見つかっていない品種もあります。
◾️
猫の血液型割合は品種による差は結構あります。
B型多い品種は
ブリティッシュショートヘア(59%)
デボンレックス(43%)
コーニッシュレックス(33%)
エキゾチックショートヘア(27%)
ソマリ(22%)
などなど。
ラグドールに関してはAB型が18%(B型が5%)
もいると言われています。
品種によって差があるのがわかります。
B型はがめずらしいので供血してくれる猫を探すことが大変で、
それが輸血の現実的な大いな問題となっています。
動物の血液と輸血
人にはA、B、AB、O型と4つの血液の型があります.
自分以外から血をもらい体内に入れる行為を輸血と言い、
それには同じ型同時で行う必要があります.
動物は種ごとに特徴的な血液型を持っています.
動物も、血液の病気や大きな事故、手術を行う場合は、
大量の出血が必要になります。
その場合は人と同じように輸血が行わなわれています。
人と動物の血液の違いについて考えたいと思います。
◾️
まず人の血液についてです。
人はABO式血液型とRh式血液型があります。
これは赤血球に付いている抗原という
オプション(付属物、装飾というイメージで良いでしょう)の種類を表しています。
人の血液中には抗体という成分があり、
A型の人は抗B抗体
B型の人は抗A抗体
O型の人は抗A抗体と抗B抗体
を持っています。
A型抗原と抗A抗体がくっつくと塊を作り、血球を変性してしまうため、
重大な副作用として悪影響を及ぼしてしまいます。
なのでA型の人にB型血液を入れることはできません。
日本人では
A型が40%(十人中4人)
B型が20%(十人中2人)
O型が30%(十人中3人)
AB型が10%((十人中1人)
です。
AB型は他の国では10%以下であることが多く、
日本のAB型は他国に比べると多いそうです。
加えて人にはRh血液抗原という識別もあり、
種類は50種類以上あるのですが、重要なのが
Rh Dという種類の血液抗原が重要で、
Rh D抗原がある人がRh+血液型
Rh D抗原がない人がRhー血液型
に分けられます。
日本人は99.5%がRh+、0.5%がRhーと言われています。
(ちなみに欧米人はRhーは30倍近い15%程度いるそうです)
◾️
動物にもいくつもの血液型システムがあり、複数の血液型抗原システムを持っています。
続く